歌に深く共鳴する仕組みの個人差
- 二子渉
- 6月25日
- 読了時間: 4分
先日、ふとしたきっかけで我が家で名曲「なごり雪」の話になりました。
確か娘が言った一言が、なごり雪の歌詞の一節を思い出させたとか、ほんとうに些細なきっかけで、僕がお昼の用意をしながら歌い始めたんですよね。
歌ってみると、今だからこそわかるいろんな深みというかよさというかがあることに気づきました。この曲を僕が知ったのはもう40年くらい前だと思うんだけれど。
例えばね、10代の若かった頃、サビの「今、春が来て君はきれいになった」っていう歌詞の意味とか、今から思うとよくわからなかった。なぜサビがこの歌詞なのか、この歌詞だとどういいのか、言語化して表現することはとてもできなかった。
でも今ならこの曲の背景に対する僕のイマジネーションがうんと豊かになっているので、この歌詞の意味も豊かに受け取れる。
***
伊勢正三さんがどういう意味で書いたかは調べていないけれど、僕が自分の世界の中でこの曲の物語として思い浮かべるのは、たぶん幼馴染の二人がたまたま、それぞれ地方から東京にでてきて学生生活をしていた話。
よく知っているもの同士だから、よくつるんで遊んでいた。幼馴染だし、異性として大して意識もせずに。
そして彼女は学生生活が終わったときに、地方に戻ることになった。
(もしかしたら縁談があるのかもしれない。)
歌い手である彼は、そうなって初めて、自分の中の彼女に対する気持ちに気がついて、その目で彼女をみてみたならば、息を呑むほど美しい女性がそこにいた。
時がゆけば幼い君も
大人になると気付かないまま
今春が来て
君はきれいになった
去年よりずっときれいになった
でも気づくのが遅すぎた。
そのまま想いを告げることもできずに、なごり雪の降る、春のような冬のような切ない日に、汽車は去っていく。
知らなかったよ。こんなに君が美しかったなんて。
なんて自分はうかつだったのだろう。
呆然として、どうしていいかわからなくなって、ホームに立ち尽くしたまま、うつむいて動けなくなる。
視界には、落ちた雪が解ける様子。
その様子は少し目を引くものであって、見るともなく見続けている。
それが初春の明るい空から降ってきている。
と、そんな物語がイメージできる。
書いてて泣いちゃいそうなほどに。
***
みたいなことを想像して、改めてすごいいい曲だなと思って桂子さんにこの話をしたわけです。
彼女は、「あなたの人生の中で、そういう気持ちになったのはいつなの?」と聞きまして。
僕にとってはこの問いはかなり意表をついている。
こういう気持ちになった時は・・・ない、たぶん。
意識していない。もしかしたらあるのかもしれない。
まあでもとにかく、僕はそういうふうに音楽を聴いていないんですよね。
僕自身の歴史で言うなら、高校の時に付き合ってた子が関西の大学に受かって、新幹線のホームに送りに行って、込み上げることがあったなんて出来事はあったけれど、この歌でそのシーンを思い出したりはしない。
こうした作品に触れる時に、僕が実際に自分の身に起こった出来事と繋げて聴くわけじゃない。
自分が似たようなシチュエーションを体験し、似たような気持ちを味わったから共鳴するわけじゃない。
そういう体験の歴史が長くなったから、深く受け取れるようになったのではない。
***
そうじゃなくて、人について世界について、広く深く学んできたことで、僕の内面の世界が豊かになった、だから実際には僕の人生にはなかった場面に深く共鳴できるようになった。
落ちては解ける雪に見入ってしまう感じ
微細な変化の蓄積の末に、大きく変わってしまった物事に驚く気持ち
東京の春に雪が降る日がどんな様子なのか
自分のうかつさが、取り返しのつかない結果をもたらした時の、いい知れない無念さ
大切な人が乗る汽車が去っていく、その映像と音
こういう一つ一つのことが僕の中で若い頃よりも深いものになっていて、それらが組み合わさった時に、一つの世界が豊かに立ち上がる。
そういうふうに、自分の内面が育ってきた、それが僕という存在なんだ、という感覚があるのです。
僕が自分のことをわかってもらえたと感じるとするなら、こういう僕を受け取ってくれた時とも言える。
逆にたとえば、今日のある瞬間、どんな気持ちになったかは、僕を構成するデータのほんのひとかけらに過ぎないので、それをもって「あなたってこういう時にこういうふうに感じる人なのね」みたいに僕を受け取られると、多くの場合、とても小さく決めつけられたような、僕の本体については何も見てもらえていないような、いや〜な気持ちになる。
みたいな話を妻として、妻は自分とは全然違うんだねー、という話をしてまして。
これがなかなか面白い話だったのでシェアしようと思ったわけです。
あなたの場合はどうですか。
最後まで読んでくださってありがとう。




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